(※注意) このサイトは、スムーズな事業承継のために種類株式及び従業員持株会を活用したスキームをご紹介することを目的とするものであり、上場株式あるいは財産形成のための従業員持株会についてご紹介するものではありませんのでご注意ください。
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従業員持株会制度とは、従業員が自分の会社の株式をスムーズに保有するための一定のルールです。
最近この制度を導入する会社が増えてきていますが、その大きな理由の一つにこのしくみを活用するとよりスムーズな事業承継を行うことができることがあります。
その大まかなスキームは、オーナーが自社株の一部あるいは大部分を従業員持株会に譲渡し、個人財産を減らすことによる相続税あるいは事業承継コストの軽減です。
ただし、ここで特に注意しなければならないのが、会社の支配権と残余財産分配請求権です。
株式には、様々な権利があり、従業員持株会に譲渡する株式にその権利を残したままでは、後継者が思うように経営を行うことができなくなったり、思いがけず清算しなければならなくなった場合には、残余財産を従業員持株会の会員に分配しなければいけなくなったりします。
しかし、会社法の制定により、種類株式の概念が整理され、より様々な種類の株式の発行ができるようになり、これらの不都合を解消することができるようになりました。
これらの新たな制度を駆使し、自分の会社の現況にあった従業員持株会及び株式制度を作り、よりスムーズな事業承継を行いましょう。
※法定相続人1名、自社株シェア:100% 10万株(@10,000円)として試算した例となります。
※(例1)であげました財産の現状より、30%(30,000株、3億円)を持株会に譲渡した場合の例になります。
従業員持株会は、法的な性格から「民法上の組合」「法人格のない社団」「任意団体」の3つの形態のいずれかで設立することができますが、一般的には民法上の組合として設立されます。これは、「任意団体」とする場合は、信託銀行との信託契約を締結し、名義人となった信託銀行が株式の運用を行うといった形態であるため非上場株式の持株会には不向きであり、「法人格のない社団」だと、税法上は法人とみられるため法人税が課税されるとともに、従業員持株会が受け取る配当は構成員の雑所得となり、会員は配当控除の適用を受けられないためです。
民法上の組合 | 任意団体 | 法人格のない社団 | |
---|---|---|---|
法的性格 | 民法667条の規定に 基づく団体 法人格を持たない |
法人格を持たない | 法人格は持たないが、 社団として扱われる |
税務上の取扱い | 会員個人が受ける 配当金は配当所得 (配当控除可) |
会員個人が受ける 配当金は配当所得 (配当控除可) |
法人とみなされて 法人税が課税される 会員個人が受ける 配当所得は雑所得 |
株式の供給方法には、大株主からの供給、第三者割当増資、売却希望者からの買い取りが考えられますが、事業承継・相続税対策スキームの中では、大株主からの買い取りがメインです。第三者割当増資の場合、増資を引き受ける者によって、また、いくらで発行するかによって同族株主あるいは既存株主との間で税務上複雑な関係が生じる場合があるからです。
大株主の分譲により供給する場合には、配当還元価額によっていれば、贈与税がかかる心配はありません。
配当還元価額よりも低い価額となる場合には、譲渡価額と配当還元価額との差額は贈与税の基礎控除額の年間110万円の範囲内に抑えられれば問題は生じないでしょう。(他に贈与を受けるものがない場合)
第三者割当増資の場合は、上記のとおり複雑な問題が生じる可能性があります。
株式の発行は、有価証券の売り出しに当たりますので、売出価格と対象者の数に応じて、有価証券届出書、あるいは、有価証券通知書を提出する義務が生じることがあります。
また、その売出価格が1億円未満であっても、過去2年以内に同一種類の有価証券の売り出し(含む募集)が行われている場合で、今回の売出価格の総額と、過去2年以内の売出価格の総額を合算した金額が1億円以上になるときは、有価証券届出書の提出が必要になります。
同様に、勧誘の対象者が50人未満の場合にも、過去6ヵ月以内の通算人数が50名以上になれば有価証券報告書の提出が必要になります。
1億円以上の募集・売出 | 1億円未満1千万円超の募集・売出 | |
---|---|---|
50名以上に勧誘 | 有価証券届出書 | 有価証券通知書 |
50名未満に勧誘 | 有価証券通知書 | 不要 |
設立手順は次のとおりとなります。
作成資料等は次のとおりとなります。
主体 | 作成書類 | 備考 | |
発行会社 | 従業員持株会 | ||
持株会規約の決定 | 従業員持株会規約 | 対象者、価格等を決定 | |
設立発起人・理事の選出 | 発起人会議事録 | 総務部長・経理部長が就任 | |
理事長印の作成 | 口座作成、契約締結のため | ||
預金口座の開設 | 理事長名義の預金口座作成 | ||
取締役会 | 取締役会議事録 | 従業員持株会設立の承認 | |
会社と持株会との覚書締結 | 覚書 | 目的外利用禁止等 | |
従業員説明会の実施 | 従業員説明会資料 | 設立趣旨・制度に関する説明 | |
取締役会 | 取締役会議事録 | 株式の譲渡承認 | |
株式の売買契約締結 | 株式売買契約書 | ||
売買代金の決済 | |||
持分残高の通知 | 会員別持分明細表 | 会員ごと持分割合を書面で通知 |
平成13年の商法改正により、「議決権制限株式」は優先的な配当を行うことなく発行できるようになり、会社法においてもこの制度を取り入れるとともに、株式に付随する権利について、異なる内容を持つ種類株式を発行することが可能になりました。
また、会社が発行可能な議決権制限株式の数は、全ての株式に譲渡制限を設けている会社に限り無制限です。(非上場株式の株式にはほとんど譲渡制限が付いています。)
したがって、オーナーの立場からは、配当については普通株式並みだが、議決権を制限した株式を従業員持株会に発行すれば、経営支配権を維持しながら、相続財産を減少させることができます。
会社が発行可能な主な種類株式は次の通りです。
主な種類株式の名称 | 内容 |
配当優先株式 配当劣後株式 |
剰余金の配当について異なる定めをした株式 |
残余財産分配優先株式 残余財産分配劣後株式 |
残余財産の分配について異なる定めをした株式 |
議決権制限株式 | 株主総会において議決権が行使できる事項について 異なる定めをした株式 例えば、役員選任決議権があり、他の一切の議決権がない 株式や、一切の議決権がない無議決権株式などがある。 |
譲渡制限株式 | 譲渡に株式会社の承継を要する株式 |
決議拒否権付株式(黄金株) | 拒否権付株式株主総会、取締役会、又は清算人会における 決議事項のうち、その種類株式の種類株主総会の決議が あることを必要とする株式 |
役員選任権付株式 | 取締役、監査役の選任について、その種類株式の 専任事項とする株式 |
ここでぜひ活用したいのが、配当決議権のみを付与された種類株式です。オーナーは従業員持株会に、この配当決議権のみを付与された種類株式を譲渡することにより、オーナーの支配権を維持し、残余財産分配請求権を確保しながら、相続財産及び事業承継コストを減少させることができます。
同族株主が相続等により取得した配当優先の株式の価額については、下記に掲げる原則的評価方式の適用方式(類似業種比準方式又は純資産価額方式)の別に、それぞれの方法によって評価するものとされています。
財産評価基本通達183(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)に定める1株当たりの配当金額については、株式の種類ごとに計算して評価するとされています。
したがって、配当優先株式が評価対象株式である場合には、その配当優先株式に係る剰余金の配当の金額のみで計算し、また、配当優先株式以外の株式(普通株式)が評価対象株式である場合には、その普通株式に係る剰余金の配当の金額のみで計算することになります。その結果、配当優先株式と普通株式とでは、年配当金額欄の金額に差異が生じ、1株当たりの相続税評価額が異なることも想定されます。
評価対象株式が配当優先株式であるか又は配当優先株式以外の株式であるかにかかわらず、財産評価基本通達185(純資産価額)の定めにより評価するものとされています。
無議決権株式については、原則として、議決権の有無を考慮せずに評価するものとされています。したがって、無議決権株式と無議決権株式以外の株式(普通株式)との間では、議決権の有無がその評価額に影響を与えることはなく、いずれも同一の相続税評価額が算出されることになります。
(1)の原則的な取扱いにかかわらず、議決権の有無によって株式の価額に差異が生じるという考え方にも配慮して、同族株主が無議決権株式を取得した場合には、一定の要件を充足したときに、その無議決権株式及び普通株式の評価を一定の方法によって調整して算出し、申告することができるものとされています。
このように、一部の株式を配当決議権のみを付与された種類株式とすることによって、他の株式の評価額が変わるといったことはありません。
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従業員持株会を設立するにあたって名義株がある場合には整理する必要があります。
名義株とは株主名簿に記載された名義人である株主と真実の株主とが異なっている株式をいいます。
法人税法基本通達1-3-2によると、株主は株主名簿に記載されている株主によるが、その株主が単なる名義人であって、その株主以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者を株主とする、と規定されています。税務においては株主名簿に記載されていない実質の株主が、名簿上の形式的な株主と特殊な間柄にあること等によってその者の株主権を実質的に支配することができる場合には、その実質株主を同族会社の株主とする実質主義が採用されています。
名義株であるか、実際の株主であるかの判定にあたっては、まず、配当金の授受が実際にあったかどうか、また、それに基づき配当所得の申告が行われたかどうかを確認する方法があります。
ただ、中小企業においては配当金の支払いが長期にわたって行われていないことも多いのでこの判定ができないことも多いです。
同族関係者間の株のやり取りについては、贈与、譲渡いずれも考えられますが、譲渡の場合は譲渡所得税が発生する可能性が高く、申告が行われているかと金銭のやり取りの事実を確認する必要があります。また、贈与であって、基礎控除範囲内で行われていれば、申告のみでは把握できない場合もあります。
また、同族関係者以外の者への贈与、譲渡については、一般的には配当還元価額による贈与、譲渡が可能と考えられておりますが、実際には額面(発行価額)でのやり取りが行われている場合も多く、この場合には、譲渡であっても譲渡損益が発生しないことから申告が行われていない可能性が高く、贈与の場合であっても基礎控除の範囲内で申告が行われていないことがありK所の場合には確認が取れない可能性もあります。
また、譲渡制限会社においては、株式を贈与あるいは譲渡する場合には、株主総会あるいは取締役会決議が必要であるためこれらの書類の確認もすべきでしょう。
実際に名義株であることが判明した場合には、株主名簿や別表二を真実の株主に記載し直す必要があります。
この手続は、実質的な真実の株主への書換えですので課税関係は生じませんが、株主の異動のあった別表二から、課税庁によって贈与あるいは譲渡が新たに生じたと判断される可能性もあります。
よって、これらの手続きに係る念書等の疎明資料を作成しておく必要があるでしょう。
非上場株式の譲渡や贈与においては、取引の当事者や種類によって、取引価額を検討すしないとは課税上弊害が生じることがありますので、各税法、通達、判例から取引の実態に則して取引価額を決定する必要があります。
法人税法では、証券取引所等の取引価額等が存在しない非公開株式の価額の評価について一般的な規定はありません。
ただし、資産の評価損の損金算入規定を適用する場合の非公開会社の株価の評価については、次の通達により原則的な定めをおいています。
法人税基本通達 9-1-13 上場有価証券等以外の株式につき、法第33条第2項《資産の評価替えによる評価損の損金算入》の規定を適用する場合の当該株式の価額は、次の区分に応じ、次による。
また、特例として、次のような、財産評価基本通達の援用規定を設けています
財産評価基本通達 9-1-14 法人が、上場有価証券等以外の株式(9-1-13 の(1)及び(2)に該当するものを除く。)について法第33条第2項《資産の評価換えによる評価損の損金算入》の規定を適用する場合において、事業年度終了の時における当該株式の価額につき財産評価基本通達178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、次によることを条件としてこれを認める。
また、法人が非上場有価証券を譲渡した場合としては次の通達があります。
法人税基本通達 2-3-4 法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合における法第61条の2第1項第1号《有価証券の譲渡損益の益金算入等》に規定する譲渡に係る対価の額の算定に当たっては、4-1-4《上場有価証券等の価額》並びに4-1-5及び4-1-6《上場有価証券等以外の株式の価額》の取扱いを準用する。
法人税法基本通達4-1-5 上場有価証券等以外の株式について法第25条第3項《資産評定による評価益の益金算入》の規定を適用する場合において、民事再生法の規定による再生計画認可の決定があった時の当該株式の価額は、次の区分に応じ、次による。
法人税法基本通達 4-1-6 法人が、上場有価証券等以外の株式(4-1-5の(1)及び(2)に該当するものを除く。)について法第25条第3項《資産評定による評価益の益金算入》の規定を適用する場合において、民事再生法の規定による再生計画認可の決定があった時における当該株式の価額につき昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(以下4-1-6において「財産評価基本通達」という。)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、次によることを条件としてこれを認める。
よって、関連会社間等において取引相場のない株式の譲渡を行う場合の適正価額の判定にあたっては、この取扱いによることとなります。
中心的同族株主かどうかの判定は、次の通達によります。
188 178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。
23~35共-9 令第84条第1号から第4号までに掲げる権利の行使の日又は同条第5号に掲げる権利に基づく払込み又は給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日。以下この項において「権利行使日等」という。)における同条本文の株式の価額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。
(注)この取扱いは、令第354条第2項《新株予約権の行使に関する調書》に規定する「当該新株予約権を発行又は割当てをした株式会社の株式の1株当たりの価額」について準用する。
59-6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)ニ に定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日 付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額と する。
改正前の本項は、個人から法人に対して株式等を低額譲渡(その株式等の時価の2分の1未満の対価による譲渡)又は贈与した場合における所得税法第59条 第1項の「その時における価額」は所得税基本通達23~35共-9に準じて算定するとともに、所得税基本通達23~35共-9の(4)のニに定める「1株 又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」は、一定の条件の下に、財産評価基本通達に準じて算定することを明らかにしている。
平成18年度税制改正等に伴い、本項において以下の改正を行ったものである。
(注) 公開会社とは、その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社 の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう。
所得税法 第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
第百六十九条 法第五十九条第一項第二号 (贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定める額は、同項 に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額とする。
よって個人から法人への売却にあたっては、その個人が中心的な同族株主かどうかにより異なり
中心的な同族株主である場合
(1) 常に小会社評価(純資産価額方式又はl=50%とした併用方式のいずれか低い価額)
(2) 上場株式と土地は時価で評価する
(3) 評価差額について法人税等相当額は控除しない
中心的な同族株主でない場合
(1) 上場株式と土地は時価で評価する
(2) 評価差額について法人税等相当額は控除しない
となります。
個人から個人への譲渡については、次の相続税法 第7条における低額譲受の規定を考慮しなければなりません。
相続税法 第7条 著しく低い価額の対価て財産の譲渡を受けた場合においては当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第3章に特別の定めがある場合にはその規定により評価した価額)との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし当該財産の譲渡が、その譲渡を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合においてその者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときはその贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額についてはこの限りでない。
よって個人間売買における価額については、売り手側は税務上なんら規制は受けず、買い手側は、相続税法7条の規制を受けるということになります。
そこで、この条文における著しく低いという意味合いですが、所得税法施行令第169条のような、2分の1未満等の規定が存在しないことから問題が生じます。
そこで次の判例をご紹介します。
東京地裁 相続税評価額による親族への土地譲渡で納税者主張を認める判決
東京地方裁判所民事第2部(大門匡裁判長)は8月23日,親族への土地譲渡が著しく低い価額の対価によるものかどうかで争われていた事件で,贈与税の決定・更正処分の取り消しを求めていた納税者の主張を認める判決を言い渡した。
判決では,相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額の対価で譲渡が行われた場合は,原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡とはいえないとし,譲渡者が自己の所得税の軽減を意図し,また,親族に一定の利益を享受させる意思があっても,相続税法7条のみなし贈与の適用は左右されず,本件は明らかに異常で不当な租税回避を目的とした取引には該当しない,として国側の主張を退けた。
負担付贈与通達については,硬直的に適用すると結果として本件のように違法な課税処分をもたらすことが考えられると指摘した。本事案は,18年5月24日裁決で納税者の請求を棄却している(裁決事例集No.71収録)。
相続税法7条では,著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合,対価と譲渡時の時価の差額を贈与で取得したものとみなすとしており,平成元年に制定された「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(法令解釈通達)で,土地等で個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は,取得時の通常の取引価額に相当する金額で評価すること,この対価を伴う取引が法7条の著しく低い価額の対価で譲渡を受けた場合に該当するかは,個々の取引について取引の事情や取引当事者間の関係などを総合勘案し,実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかで判定することとしている。
本件は,原告の親族が平成13年に購入した土地を15年12月25日に原告らへ譲渡,その譲渡代金の算定根拠が路線価によるものであったため,相続と異なり対価を伴う取引の場合に相続税評価額を適用することは適切ではないなどとして,贈与税の決定・更正処分を受けたことによる。
原告・納税者は,相続税法7条が適用されるとしても,贈与税課税は相続税評価額と譲渡価額との差額で行うべきであること,負担付贈与通達の制定時とは不動産状況が異なるため通達の適用は条件を欠いているなどとし,著しく低い価額で譲渡を受けた場合には該当しないとして処分の取り消しを求めていた。
裁判では,相続税法7条が規定する時価の意義と著しく低い価額であるかの判定基準,本件の譲渡代金が時価よりも「著しく低い」価額の対価であるかどうかが争点となった。
裁判所では,まず,相続税法にいう時価は7条においても常に客観的交換価値を意味するものとしたうえで,時価(地価公示価格)より20%程度低い相続税評価額で譲渡することは,その面だけをみれば経済合理性にかなったものとは言いがたいとしながらも,80%は社会通念上,基準となる数値と比べて一般に著しく低い割合とはみられてはいないこと,相続税評価額は土地取引のひとつとなりうる金額であることから,これと同水準の価額を対価とすることに経済合理性がないとはいえないとし,評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として譲渡が行われた場合は,原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡であるとはいえないと判断した。
国側が,相続税評価額が地価公示価格と同水準の80%であるという差を利用し,実質的には,贈与税の負担を免れつつ贈与と同じ利益の移転が可能となる,と指摘している点も疑問であるとし,同法7条が,著しく低い価額に至らない低い価額の譲渡を許容していることを考慮していないもので妥当でないとした。
一方,本件の親族への土地譲渡について国側は,譲渡した親族が土地の譲渡損失の損益通算が廃止される(平成16年)前に譲渡損失を確定させ,親族間における資産構成を変えることを目的としていること,取得価額を1億円余も下回る価額で売却する合理的な理由はなく,第三者へ譲渡したとした場合との差額相当の利益を原告らに享受させたものであるから,相続税法7条にいう「著しく低い価額」の対価による譲渡に該当すると主張した。
著しく低いかどうかは,単に時価との比率だけでなく,「実際に贈与を受けたと認められる金額」の有無で判定すべきあるということだ。
国側は,譲渡者に所得税の軽減という明確な意図があったこと,親族に利益を享受させる意思で売買したことなどを相続税法7条の適用根拠としたわけだが,裁判所は,贈与や租税回避の意思の有無で適用が左右されることはないとして主張を退けることとなった。
売主の事情を,買主である原告への贈与税課税の根拠とすることも疑問だとしている。
また,裁判所は,譲渡者が平成13年8月に土地を取得してから15年12月に原告へ譲渡するまで2年以上の期間が経過していること,原告が取得したのは第三者が使用している建物の敷地である土地の持分で,容易に換価できるものでなく,実際に換価していないこと,譲渡者が売買で流動資産を増やしたいというのも一応合理的な理由があったといえる点などからも,明らかに異常で不当な取引であると認めることはできないとした。
国側が課税の根拠とした負担付贈与通達については,実際に贈与を受けたと認められる金額があるかという判定基準は,相続税法7条の趣旨にそったものとはいい難く,基準としても不明確などと指摘。
通達は,個々の事案に応じた判定をすることになっているので直ちに違法・不当であるとはいえないとしながらも,「個々の事案に対してこの基準をそのまま硬直的に適用するならば,結果として違法な課税処分をもたらすことは十分考えられるのであり,本件はまさにそのような事例である」としている。(税務通信No.2983 より)
次に負担付贈与に関する通達をご紹介します。
「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」
相続税関係 個別通達目次|国税庁ホームページより
標題のことについては、昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17「財産評価基本通達」(以下「評価基本通達」という。)第2章から第4章までの定めにかかわらず、下記により取り扱うこととしたから、平成元年4月1日以後に取得したものの評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用については、これによられたい。
(趣旨)
最近における土地、家屋等の不動産の通常の取引価額と相続税評価額との開きに着目しての贈与税の税負担回避行為に対して、税負担の公平を図るため、所要の措置を講じるものである。
記
このように、個人間売買における評価額は、諸説あり定まっていないともいえるのでしょうが、次にご紹介する贈与と同じように、一般的な相続税評価額であれば課税されないというのが多数説です。
贈与税は相続税評価額によりますので、贈与の際の時価は、相続税評価額と解釈されます。よって、相続税評価額と「純資産価額を参酌して通常取引されると認められる価額」に大きな乖離がある場合には、課税上弊害があるとして、個人間の取引についても、同族会社の行為又は計算の否認規定が適用され、「純資産価額を参酌して通常取引されると認められる価額」とすべきという実務家もいらっしゃいます。
ただし、現時点においては個人間の売買価額が相続税評価額で行われている場合に否認されたケースは、上記Ⅲ以外には見受けられないようです。
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